熊本ここだけの話
球磨方式
球磨方式という酒の酌み交わし方がある。古来、宴の席では目上の人がいわゆる「盃をとらす」という形で部下に自分の飲んだ盃を与えるというやり方が日本の風習であるが、人吉・球磨地域ではこれが逆になっている。つまり目下の人間が上司や先輩に対して「お世話になります」という形で盃を差し出す。慣れるまではちょっと戸惑うが、これもこの地域独自の文化なのである。
球磨(くま)焼酎でよく知られている人吉・球磨地域は、相良藩と呼ばれた2万2千石の小さな藩であり、初代相良氏がこの地を治めたのは鎌倉初期の頃であった。それから数えると800年以上も立っており、熊本の中でも独特の文化を育んできた地域である。
人口10万の盆地に28の焼酎蔵元があり、地元でのお祝いその他仕事上のお付き合いに欠かせないのがこの焼酎である。宴席では焼酎を入れるとっくり(「がら」と呼ぶ)と盃(「チョク」と呼ぶ)を持ち歩きながら球磨方式の盃のやりとりが始まる。
ところで、球磨焼酎はこの地の名前そのものがブランド名になっており、ボルドーヤシャブリ、コニャックなどと肩を並べる数少ないブランドでもある。しかも狭い盆地の中に28の蔵元がひしめきあい、銘醸産地として有名なスコットランドのディステラリー地帯にも匹敵する集中度である。また、地域の生活に大変密着した酒でもあり、集落ごとにビール工場があるドイツの「生活圏の酒」を上回るほどに地元から支えられている焼酎でもある。
先日も仕事で人吉市に宿泊し、地元の方々と焼酎を酌み交わしたが、この球磨方式で飲み始めると際限なく話が続き、昼間の難しい課題も何かクリアできたような気がするので不思議である。
「県南地域に是非企業誘致を」という自治体の皆さんの熱い声が頻繁に入ってくる。この球磨方式により県と地域とが強力な連携を図り、是非とも誘致の成果を出したいと考えている。もちろん球磨だけでなく、天草方式、芦北方式というのもきっとあるのだろうと思うが、それぞれの地域特性を活かした誘致というのはそこに住んでおられる方々が一番よく知っておられる。遠慮なくその声を県にぶつけてもらいたい。
熊本県は地域の特性に応じた企業誘致を戦略の中で明確に宣言している。
(企業立地課 小野上)