熊本ここだけの話
「言葉」を知る~人生を豊かに生きるために~
先日、熊本県立御船高等学校で「ある熊本人の半生について」というタイトルの講演会がありました。講師は元ヤクルト本社専務取締役の平野博勝氏です。この講演会は首都圏在住の熊本県出身者が熊本県内の小学校、中学校、高等学校で出前授業を行うというもので、年十数回実施されています。
平野さんは熊本県旧木山町(現在の益城町)のご出身で、中学高校は熊本市内の九州学院、大学は早稲田大学へと進まれました。卒業後は8年間のフリーター生活を経て、ヤクルトに入社。同社で多くの海外勤務を経験しながら経営者の階段を駆け上がられ、ヤクルト本社の専務取締役まで務められました。“木山町→熊本市→東京都→世界”と、どんどん外に飛び出して、より大きなフィールドに活躍の場を広げてこられたのです。
講演会では、そんな平野さんの高校・大学時代の経験を軸に、“貴重な青春時代に実行して欲しいこと”を高校生達に語られました。
平野さんが高校生の時は(ご本人曰わく・・・)「勉強する意味が分からず、勉強が嫌いで成績も悪かった」とのこと。そんな平野さんがどうして東京に飛び出し、世界に飛び出し、世界的企業の経営者にまでなれたのでしょうか。平野さんは、行った事の無い所に「行ってみたい!」、見た事の無いもの「見てみたい!」、聞いたこと無い事「聞いてみたい!」、やったこと無い事「やってみたい!」、知らない事「知りたい!」という“自分の本能に素直”に従い、“興味と好奇心と願望”“疑問と不思議”という気持ちを人一倍大切にしてこられたそうです。
そして、そんな平野さん自身の興味・好奇心をかき立て、それにより生まれる疑問と不思議に答えてくれたのが、様々な本だったそうです。平野さんのお話には、夏目漱石や太宰治、スタンダールやトルストイ、パスカル、アインシュタインなど、国内外の小説家、哲学者、科学者が次々と登場します。そして、各人が書き残した小説、哲学書、論文がいかに素晴らしいか、その感動が平野さんの人生にどんな影響を与えたか、ということを生き生きと語ってくださいました。
人間が長い歴史の中で作り上げてきた文化、文明、化学は、すべて人間の不思議に思う心によって生み出され、それらは「言葉」で考えられ、作られ、伝えられ、広まってきたと語られました。人は「言葉」で考える→だから「言葉」が分からないと考えられないのだと。小説家には小説家の言葉があり、物理学者には物理学者の言葉があり、哲学者には哲学者の言葉があります。それぞれの言葉を知らなければ、小説も物理論文も哲学書も理解することはできません。例えば、アインシュタインの「特殊相対性理論」の論文はわずか2枚の紙ですが、その中身の大半は数式です。アインシュタインは「特殊相対性理論」を伝える「言葉」に数式を選びました。そのため読者は理論を理解するために数式という言葉を理解しなければなりません。様々な本を読み、それぞれの言葉を知る事がいかに大切かを、繰り返し語ってくださいました。
そして、勉強は学校で良い成績を取るために行うものではなく、社会の中で自分で考え、自分で決めて、自分で行動するための「言葉」を知るために行うのだと教えてくださいました。
最後に、若者達への激励のメッセージがありました。現在、派遣社員の大量解雇が社会問題となっていて、将来に不安を抱く高校生も少なくないかもしれません。しかし、恐れる事は何もないというのです。企業間の競争は最終段階に来ている。つまり、“価格”“品質”“シェア”の競争は終わり“人材獲得”の競争に入っている。発想力が豊かで、自分の考えを言葉で伝え、人を説得し納得させ、行動できる人材を多くの企業が求めている。そんな優秀な人材になれればたとえフリーターや派遣社員だとしても将来に不安を抱く必要などない、と語ってくださいました。平野さん自身も8年間のフリーター生活を経験されています。その中で、自ら深く考え決断し行動するということを学び、その後の人生を大きく開拓されたそうです。
平野さんのお話を聞いていると、若い頃から、本をたくさん読み、何物にも拘束されない自由な発想で、自分の本能に正直に、いろいろなことに興味関心を持って、考え、決断し、行動して人生を切り開いてこられた、というのがよく伝わってきました。世界で活躍する企業経営者といえば、高校生にとってはとても遠い存在に感じられそうですが、この日の講演を聞いて、原点は自分たちと同じ学生時代にあったのだと分かり、高校生達も勇気づけられたのではないでしょうか。
(企業立地課 小柳久美子)