熊本ここだけの話
ものづくりの原点をふりかえる
先日、熊本県立熊本工業高校で、東熊会里帰り講話が開催されました。講師はDOWAホールディングス株式会社執行役員の久野誠一さんです。この講演会は首都圏在住の熊本県出身者が熊本県内の小学校、中学校、高等学校で出前授業を行うというもので、平成19年度にスタートしました。久野さんには、平成19年度は小国中学校、平成20年度は小国下城小学校と、毎年講師を務めていただいています。今年度は熊本県内でも有数の工科系高校である熊本工業高校で「磁気記録用ナノ磁性粉世界シェア80%への道・ものづくりの原点をふりかえる」をテーマとして講演いただきました。
DOWAホールディングス株式会社は、非鉄金属製錬業、環境・リサイクル事業、電子材料事業、金属加工事業、熱処理事業など様々な事業を行っており、同社の技術や材料は、自動車、パソコン、携帯電話、液晶テレビなどなど、私達の生活に欠かせない多くの物に利用されています。世界シェア1位、2位を誇る製品も数多い、世界のものづくりを支える企業です。久野さんも、世界シェア80%に及ぶ「磁気記録用ナノ磁性粉(メタル粉)」を研究開発され、その技術は、放送局向けのビデオテープなど、大容量磁気記録メディアに利用されています。
この“メタル粉”の研究は1978年に久野さんがお一人で始められたそうです。最初の3年間は全く期待されず、担当者も1~2人と少人数だったそうですが、その間の基礎研究と特許取得がベースとなって、その後の研究が進んだそうです。製品化実現のためには、量産化のためのスケールアップを実現するなど多くの課題がありますが、そこでもスケールアップの研究をするなどして、一つ一つの課題に立ち向かい乗り越えてこられたそうです。
そこまで熱心に取り組まれた理由は、メタル粉の研究を進めていく中で、高付加価値が期待できること、20年以上という長い寿命が期待できること、などいくつかあったそうですが、何より、「事業所を絶対に黒字にしたい」という思いが強かったからだそうです。というのも、労働組合活動を行うなかで、社宅や独身寮の建て替えを会社に訴えたところ、「赤字の事業所の要求は認めることができない。」との答えがあったからだそうです。
その後、大幅黒字化を果たし、25年かかって工場長として新社宅、新独身寮の建設を実現されたそうです。久野さんは、目標値を持って、へこたれない気持ちで、自己満足せずに取り組む事が大事だとお話くださいました。
久野さんには、ものづくりにおいて重要なことをいくつか教えていただきました。まず、“Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、E(エコ)、F(Future、Flexibility)”の5つが重要とお話しくださいました。“QCD”の3つは広く一般的にも言われていることですが、久野さんはそこに“E(環境にやさしいこと)”と“F(将来に対応していること、柔軟に対応できること)”を加えて、“QCDEF”の考え方を提唱され、後に社内でも定着したそうです。最近では“環境”のキーワードは企業活動においても非常に重要視されるようになりましたが、久野さんは世の中に先駆けてその重要性を認識されていたそうです。
次に、ものづくりには、“やれるか”、“作れるか”、“売れるか”、“儲かるか”、“発展するか”という段階があり、ビジネスにおいては後段階の“儲かるか”、“発展するか”ということが重要となると、教えてくださいました。聴講している工業高校生達は、毎日の勉強の中で、“やれるか”、“作れるか”という視点で学んでいる部分が多いかもしれませんが、ものづくりにおいては、“売れるか”、“儲かるか”、“発展するか”というのが重要なのだと気付く事ができたことでしょう。
久野さんは、熊本県の最北部にある杖立温泉という温泉街で生まれ育ってらっしゃいます。ここは、とても自然豊かな場所で、多感な少年時代は自然を遊び相手に冒険の日々だったそうです。持ち前の好奇心旺盛&研究熱心な性格で、まだ小学校に入る前の幼児の頃に買ってもらったばかりの三輪車を分解しそうになったこともあるそうです。小学校時代には魚採り、アケビ採り、栗拾い、野苺採り、化石発掘、宝石採り、ゴム鉄砲づくり、自作釜を利用した陶芸、三段式火薬ロケットづくりなどに熱中。中学校時代も、豚の飼育、涌蓋山登山、魚収穫、風向計製作、13色刷の版画製作など、興味関心の幅を広げられたそうです。高校時代3年間では映画を600本見たり、廃材でウクレレを作ったり、廃品回収のラジオを改造してアンプを作ったり、レコードプレーヤーをモーターと針以外はすべて自作されたりと、ますます本格化。大学でも人形劇部やサイクリング部の創部メンバーとして、部活動にも取り組まれたそうです。特に、人形劇では一時はプロを目指すほどだったそうです。社会人になってからの興味関心も、メタル粉、ゴルフ、オーディオ、マラソン、時計修理、地震予知、野鳥観察など、仕事と趣味に幅広く奥深く取り組んでこられました。
このように数え上げられないほどの多くの趣味を持って一つ一つを極めて行かれた経験が、後に世界シェア80%の材料を生み出された久野さんのものづくりの原点となっているのだ、と強く感じられました。
今回、里帰り講話が開催された熊本県立熊本工業高校は、「ジュニアマイスター」認定数日本一に輝くなど、高い評価を得ている学校です。そこで学ぶ高校生達は、将来のものづくりの担い手として、大きく期待されています。多感な高校生時代に、久野さんのようにものづくりの第一人者の話を聞く事ができ、貴重な経験となったのではないでしょうか。