スタンフォード便り
アントレプルナールのタマゴ達
自他ともに認める世界一のアントレプルナール・インキュベーターとして、スタンフォード大学は、ASES(The Asia-Pacific Student Entrepreneurship Society:アジア太平洋地区学生アントレプルナールクラブ)という国際ネットワーキンググループを主宰しています。
これは1998年に設立されたもので、将来のビジネスリーダーを育む事を目的とし、ASESスタンフォードの趣旨に賛同した各国の大学が受け皿となって、国際的な学生アントレプルナールシップを支援しています。
メンバーの参加資格は受け皿となっている各大学の「学生」であること。現在、中国、インド、日本、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、カナダ、オーストラリアの各大学に支部を設置し活動を行っています。現在、支部として立ち上げ準備をしているイギリスのオックスフォード大学とケンブリッジ大学、それにアメリカの南カリフォルニア大学をいれると、アジア太平洋地区を中心として11カ国が参加していることになります。
スタンフォードを会場とした年間の主なイベントとしては、次のようなものがあります。
・STARTUP101(スタートアップ101):会社を興した学生アントレプルナールがそれぞれにブースを設置し、そこにベンチャー キャピタリスト、弁護士・会計士等の専門家、ASES出身の先輩アントレプルナール、教授、民間企業等が興味のあるブースを訪れ、意見交換を行います。VCは筋のいいアントレプルナール開拓のため、学生はコネクション作りに大いに利用しています。
・VC3:学生アントレプルナールが独自の技術やビジネスモデル等を、ベンチャーキャピタリスト(VC)の前で3分間でプレゼンをし、VCから3分間の質疑応答を通じて、今後の事業実現につながるコメントをもらうというもの。このイベントを通じて、実際にVCから出資を引き出した学生も過去いるとのことです。
・ASESサミット:各国のASES支部メンバーが一同に介し、相互のネットワークを行う場です。シリコンバレー企業を訪問し、意見交換をする場も設定されており、企業側は優秀な各国からの人材発掘に利用しており、学生は企業とのコネクション作りに活用しています。
ちょうど上記のうちASESサミットが終了し、ASESスタンフォードの事務局担当の学生がその結果報告をするミーティングに参加しましたが、興味深かったのは以下の指摘でした。
①ASESの受け皿は大学だが、主役はあくまでも学生であるべき。大学がいかに学生の活動の黒子役に徹することができるか否かにより活動の差が生じている。
②アジアでは、アントレプルナールであることが重く受け止められていない。アントレプルナールになっても、親が喜んでくれない。社会的に認知された大企業への就職が優先される。
③ASES出身のアントレプルナールとの交流が重要。ASESメンバーであることにより、気軽に成功者からアドバイスをもらうことができる。
④ASESメンバー間のみ(ASES出身者も含む)のSNS(ソーシャルネットワーキング)が有効。ネットを通じて相談することによって、たいていの疑問・問題に対して、メンバーの誰かが必ずアドバイスしてくれる。
⑤シリコンバレーのIT企業に、ASESの活動が広く知られており、ASESサミットで企画するシリコンバレー企業訪問、企業との意見交換にも、積極的な協力が得られるようになってきた。
⑥ビジネス展開には、グローバルな戦略をいかに組み立てていくかが非常に重要なことであり、そのためにも国境を越えたネットワーキングを進め、相互に支援していくことが不可欠。
アントレプルナールを生み出すには、政府や大学が必要な指導や資金提供を行い、後は学生の自主性に任せるという支援母体による支援のあり方が成功の鍵となるようです。
また、そのアントレプルナールが新しいビジネスを成功させるには、自ら開発した技術・ビジネスモデルの中身が時代に合致した、優れたものであることはもとより、事業資金調達、法律等の専門家の活用、困った時のアドバイザーの存在、必要に応じて連絡を取り合える事業仲間の存在も欠かせないそうです。
このASESサミットの反省会を企画した教授が、最後にまとめをしてくれましたが、このようなアントレプルナールに対する一見過保護にも見えるこうした取り組みは、シリコンバレーが今後もその存在感を維持し、成長を遂げていくためにやらざるを得ない事で、裏を返せば、シリコンバレーの危機感の現れのようです。
現状に満足し、新規事業が生まれなくなったら、シリコンバレーの役割は終わってしまう。常に、新しい事を生み出し、技術革新・開発の足を止めないこと。そのために、アントレプルナールのタマゴ達をしっかり支援し、将来、優秀なビジネスリーダーへと成長してもらいたい。学生へのそんな願いを込めて、今後もこのASESを通じた学生アントレプルナール支援の輪を世界中に広げていくそうです。
これはシリコンバレーの牽引役たるスタンフォードの使命なのだと思いました。